ベオグラード、空爆の記憶

 イスタンブル観光を楽しんだ後、モンテネグロ(ポトゴリツァ→コトル)、クロアチア(ドブロブニク→スプリト)と旅を続け、最後にセルビアのベオグラードにやって来ました。余談ですが、ドブロブニクからスプリトまで利用したフェリーは最高に楽しい思い出です。(現在は高速船になって雰囲気も変わったようです。) 10数年ぶりで訪れたドブロブニクでは観光客の増え方に仰天しましたが、ベオグラードにはメジャーな観光地がないので観光客も少なくて楽しめました。

 ある程度以上の年齢の方には今更申し上げるまでもありませんが、ベオグラードといえば旧ユーゴスラビアの首都です。「七つの国境、六つの共和国、五つの民族、四つの言語、三つの宗教、二つの文字、一つの国家」と言われた複雑な環境にありながら、故チトー大統領の卓越した手腕によって独自の社会主義国家として歩んでいました。しかしチトーの死後国内は混乱し、1990年以降には構成共和国の独立、悲惨な内戦などを経て現在では7つの国家に分裂してしまって、かつての姿を思い起こすことも困難になってしまいました。

 現在はセルビアの首都となったベオグラードには、そんな動乱を思い出させる遺構もなくなり平和な市民生活が営まれていますが、2018年に廃止されたベオグラード本駅からも近い都心の官庁街の一角に突然、時間が止まったような空間が現われます。コソボ紛争に介入したNATO軍によって、1999年に空爆された旧ユーゴスラビア国防省ビルの残骸です。NATO軍空爆当時の悲惨な記憶を忘れないために、今もそのままの姿で残されています。そしてその目の前をトラムが走っているのですから、ベオグラード訪問の際には絶対外せないポイントです。

 ベオグラードのトラムは主力のタトラ・カーの他にもバーゼルからの譲受車やスペインCAF製の低床車も走っていますが、ここでは断然タトラ・カーが似合います。トラムは頻繁に走ってきますが、いずこも同じクルマの被りとの戦いは免れません。30分くらい粘ってやっと狙った写真が撮れました。坂を下りてくる真っ赤なタトラ・カー、クルマもおらずいい感じです。うまい具合に兵士が通りかかって画面に花を添えてくれました。

(2012.9.4 ベオグラード Beograd)

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2012.9.4
・ベオグラード、空爆の記憶